アニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』全体を通しての感想。“脚本・舞城王太郎×監督・あおきえい”によるオリジナルSFミステリ
2020年1月から3月にかけて放送されたTVアニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』の感想記事です。
核心的なネタバレは伏せていますが、ストーリー展開に触れている部分がありますので、未視聴の方はご注意下さいませ。
あおきえい監督と舞城王太郎氏がタッグを組んだSFミステリ
『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』は、「Fate/Zero」や「アルドノア・ゼロ」「Re:CREATORS」などのアニメ作品を手掛けた、あおきえい監督の最新作となるオリジナルTVアニメ作品です。
脚本を務めるのは、「煙か土か食い物」「阿修羅ガール」「好き好き大好き超愛してる。」などを代表作に持ち、独特の文体と型破りな作風で知られる小説家の舞城王太郎氏。アニメーション制作を「ハマトラ」「アンゴルモア 元寇合戦記」などのNAZが手掛けています。
物語の舞台は近未来の日本。この世界で多発する猟奇的な殺人事件に対処するため、犯人の殺意を感知するシステム「ミヅハノメ」を用いて、事件を捜査する警察内組織、通称「蔵」。主人公・鳴瓢秋人(なりひさご あきひと)は、「ミヅハノメ」のパイロットとして、犯人の深層心理「殺意の世界(イド)」に潜っていく。
イドの世界に入る度に記憶を失う鳴瓢は、どのイドにも必ず死体として存在する少女「カエル」を見つける度に、自分の役割を思い出す。この世界では自分が「酒井戸(さかいど)」という名前であり、「名探偵」であるということ。そして、「カエル」の死の謎を解き明かさなければならないということを。
頻発する事件の裏に見え隠れする、連続殺人鬼メイカー「ジョンウォーカー」。ブラックボックスと化している「ミヅハノメ」の謎。「名探偵」とその補佐を担う「井戸端」のスタッフ達は、いくつもの事件を追ううちに、一つの真実へと導かれていく…。
以上が本作のあらすじです。専門用語が多く一見すると難解にも思えますが、世界観を理解すると割とすんなり受け入れられます。“SFミステリ”という作風ですがSF的な要素の説明が詳しく語られることはなく、犯人当てなどの事件の推理自体に重きを置いた作品でもありません。
中心となるのは、人間の精神(こころ)。「イド」という人の内側の世界を介して、その人間がどのような存在であるのかを如実に描いていく、実に興味深い作品です。
人間の心理を読み解く無意識世界「イド」
「イド」の世界は人によって様々。中の人間がバラバラになって存在していたり、燃えさかるビルの世界だったり、雷が落ち続けていたり。このイドの世界が、直感的にわかりやすくその人間の心を現しているのかというと、そうでないものもあって。
例えば、「穴空き」という殺人犯は、ドリルを使って自分や他人の頭に穴を空ける、なんてことをやってるんですが、彼のイドには「ドリル」だとか、「穴」だとか、それらしき具象的なものは無くて、自分の家や人間の体が「バラバラ」になって存在する世界なんです。
「穴空き」は自分や他人が壊れていると認識していて、それを直す、あるいは正すために頭に穴を空けます。具体的な理由は物語の後半で語られますが、ドリルで穴を空けるのは方法でしか無く、殺人が目的でもない。イドの世界で、穴を空けられた被害者達と「穴空き」が一緒の家にいたのは、被害者達が自分と同じ存在になったからと思われる。では、彼のイドがバラバラなのはなぜか、そしてなぜ、彼だけがバラバラの世界を自由に移動できるのか。
自分を含め人間が壊れた存在だと認識している「穴空き」ですが、「自分の世界が壊れている」ことには気付いていない。彼にとって普通に見える世界は、他人から見れば壊れたバラバラな世界なんですね。でも「穴空き」にとって正常に繋がった世界なので、彼だけは普通に移動できる(他人から見たら、バラバラに離れた部屋から部屋を空間移動しているように見える)。
こんな感じで人間の心の有様を常に描写しているので、他の作品とは一味違う“キャラクターの心理を読み解く”楽しさを実感できます。イドの世界の仕掛けが当人の何を反映しているのかを想像してみるのも面白いですよ。
メインキャラクターは「名探偵」にして「連続殺人犯」一癖も二癖もある登場人物達
特にキャラクターが立っているのは主人公の鳴瓢をはじめとした「名探偵」達。ちなみに、「ミヅハノメ」のパイロット適性の一つは「連続殺人犯」であり、イドに入った人間は皆、「カエル」の死の謎を解明する「名探偵」となります。「名探偵」と「殺人犯」が表裏一体で成り立っているのも面白いですね。
鳴瓢秋人(なりひさご あきひと)はイドの中で「名探偵・酒井戸(さかいど)」として振る舞う一方、現実世界では犯罪者として収監されており、警察に協力している立場となっています。元は殺人課の刑事であり、在職中に娘を連続殺人犯に殺害され、その復讐のために自らも殺人の罪を犯した男。また、巧みな心理誘導と話術によって複数の殺人犯を自殺に追い込んできた教唆犯でもあります。
名探偵・酒井戸が主人公然とした若い青年の姿であるのに対して、現実ではダウナーで無精髭を生やした壮年男性という見た目のギャップもまた惹かれるものがありますね。津田健次郎さんの熱演による情緒豊かなボイスも必聴です。
本作のヒロイン(?)的な役割を担う本堂町小春(ほんどうまち こはる)。「穴空き」の事件で成り行きから自殺未遂に至り、「墓掘り」の一件で犯人を死傷させたことから、連続殺人の適性を得て「名探偵・聖井戸御代(ひじりいど みよ)」としてイドに潜ることに。
可愛い見た目とは裏腹に中身は結構アグレッシブ。「穴空き」に穴を(頭に)空けられてからは、ある意味サイコパスとも取れる言動も見られるように。脳の損傷で変質した、というよりは本質が現れた、という感じでしょうか。
メインキャラクターになるとは正直思っていなかった「穴空き」こと富久田保津(ふくだ たもつ)。鳴瓢に続く「名探偵」への抜擢にも驚きました。イドの中では「名探偵・穴井戸(あないど)」という名前のイケメン。酒井戸と聖井戸との絡みが楽しい面白キャラ…と見せかけて、美味しいところを全部持っていく男。
何人もの人間の頭部を穿頭する凶行に及んだ連続殺人犯ですが、イドの中で見せた人間味のある一面が印象深く、妙な引力を持った人物です。
名探偵が事件の謎を解く鍵となる少女「カエル」ちゃん。
物語後半でさらなるキーパーソンとしての役割を背負わされます。
“彼女”の見た希望は実現するものと信じたいです…。
イドの中で名探偵を通じて得られた情報を精査し、現実世界で事件解決に当たっていく「井戸端」のメンバー達。アニメでは掘り下げの機会はありませんでしたが、別の媒体で活躍を期待したいところ。
人の絆や可能性を信じさせてくれるストーリー
人間の深層意識「イド」の世界。本作はその内なる世界を仮想現実のような空間として描くことで、心の有様を考察していく物語であると共に、人の心の繋がりを描いた物語だったと言えると思います。
そして主人公・鳴瓢秋人を通じて感じ取っていく、情緒を揺さぶる切ない想い。イドの中では助けられたのに、現実では救えなかった少女。仮想世界で生き続ける妻子との別れ。最後に希望を見出して眠りについた“あの人”の微笑み。どれもが強く心に焼き付いています。ミステリというジャンルで、ここまで心に強く訴えるものがある作品も珍しいと、全話を見終わって改めて思いました。悲しい過去や辛い現実を受け止め、それでも前に進んでいく。そんな一人の人間の生き様を描いた作品でもあります。
アニメの物語は一応の完結を迎えてはいますが、後に続くストーリーも書けそうなラストでしたので、ぜひ続編に期待を…と思ったら、アニメ最終話の後を描くお話が「ヤングエース」(KADOKAWA)にて連載中なのだとか。タイトルは『ID:INVADED イド:インヴェイデッド #BRAKE BROKEN』で、作画をキャラクター原案の小玉有起先生が担当しています。「ComicWalker」や「ニコニコ静画」などのWEB漫画サイトで無料公開も行われていますので、気になる方はぜひチェックしてみて下さい。
さらに、BS11では4月9日(木)23時30分より『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』の再放送がスタートします。未視聴の方もこの機会にぜひ。
▼番組ページはこちら
https://www.bs11.jp/anime/id-invaded/
KADOKAWA アニメーション (2020-04-24T00:00:01Z)

¥19,800
KADOKAWA アニメーション (2020-06-26T00:00:01Z)
¥19,800
(C)IDDU
(C)2019「イド:インヴェイデッド」製作委員会
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